死の概念がかわりつつあります
かつて日本では、「死」について語ることは縁起が悪いとされる風潮がありました。
一昔前なら、「自分が生きているうちに自分の葬儀の内容を考える」などというと、「この人、何かあったの?」と周りは困惑したでしょう。「そんなこと考えないで、縁起が悪いから」とたしなめられてもおかしくはありませんでした。
しかし、時代は変わるものです。高齢化社会を迎えて、自らの「就活」ならぬ「終活」に取り組む人は確実に増えています。自分が亡くなったときのことを考え、自分が後悔しない人生を送るにはどうすればいいか、残される人には何をしてあげればいいのか、そんなことを真剣に考えている人がいるのです。
今回ご紹介する「生前予約」もそんな「終活」のひとつです。大まかに言ってしまえば、先ほど述べた「自分が生きているうちに自分の葬儀の内容を考える」ということです。
大事なことなので繰り返し述べることになるかと思いますが、人が亡くなるということはそれだけで大変なことです。役所への届出や親族、友人、そのほかご縁が会った人への連絡、金融機関への連絡、相続の手続き・・・と少し考えてみただけでもやることはたくさんあります。
遺された家族がさまざまな手続きを行う中で、ある程度葬儀の方法が決まっていれば遺族の負担はだいぶ軽減されます。このような事実に着目した葬儀社各社も、生前予約を前提とした葬儀プランの売り出しを始めました。「終活」ブームともあいまって、着実に相談客は増えているようです。では、生前予約はどんなことをするのか、メリットとデメリットは何かということについて具体的にお話を進めて行きたいと思います。
生前予約とは
業者によって多少の差はありますが、生前予約とは、一般に葬儀内容や供養方法を決め、遺言書の準備までを行うことが多いようです。
葬儀内容を決める
葬儀内容とは、自分の葬儀をどのような方法でやるかということです。葬儀方法には、大きく分けて、一般葬、家族葬、一日葬、直葬の4つがあります。
一般葬
家族、親族、友人、仕事上で関係のあった人など、幅広い参列客を呼んで行う葬儀の方式を一般葬といいます。昔ながらの葬儀のやりかたといえば分かりやすいでしょう。
家族葬
家族とごく親しい親族、友人のみを呼んで行う葬儀を家族葬といいます。一般葬に比べるとつつましやかに行われます。
一日葬
通常、葬儀は通夜と告別式の2日間に渡って行われますが、通夜を行わなず告別式のみで葬儀を済ませる方法を一日葬といいます。
直葬
亡くなった場所(病院、自宅)からそのまま火葬場にご遺体をお運びし、荼毘に付す葬儀を直葬といいます。基本的に宗教的な儀式は行いません。
供養方法を決める
供養とは、荼毘に付した後のお骨をどこに納めるかということです。お墓に納めるだけでなく、お寺の永代供養塔に納めたり、散骨するなどの方法があります。
お墓に納める場合
お墓がある場合ならあまり問題はないのですが、お墓がない場合、そのお墓をどう手配するかも含めて考える必要があります。
お寺の永代供養塔に納める場合
お墓を守る人がいない場合にとる方法です。お墓に納める方法に比べると費用は安く済みます。
散骨する場合
海や山などの場所に、遺骨の一部をまく方法です。散骨する場所の管理者に許可をとらなくてはいけません。
遺言書の準備をする
自分が亡くなったあとに、遺族が財産の分与やその他の一定の事項についてもめないように、遺言書を残します。遺言書自体は自分一人でも作ることはできますが(自筆証書遺言)、できれば公証人役場に行ってちゃんとした遺言書を作ってもらうことをお勧めします(公正証書遺言)。
生前予約のメリット
では、生前予約にはどんなメリットがあるのでしょうか。大まかにまとめてみました。
自分が納得する葬儀を行うことができる
基本的に、自分が葬儀社の担当者の方と話し合って、納得した方法で葬儀を行うことができます。実際に実行されるかどうかは別として(理由は後で述べます)、自分が生きている時点においては「これなら自分の葬儀としてふさわしい」方法を探ることができきるのは大きなメリットです。
あらかじめ、葬儀やその後の供養にかかる費用が分かる
葬儀のやり方や供養の仕方次第でかかる金額は大きく異なってきます。自分がやりたい方法がどれだけ金額のかかるものなのか、納得して決めることができるのは大きなメリットです。
残された遺族の負担を軽減できる
繰り返しになりますが、人が亡くなると本当にいろいろなことを同時進行でやらなければいけません。そのため、葬儀の方法や供養の仕方だけでも決まっていると、遺族の負担はかなり減ります。
生前予約のデメリット
生前予約には、メリットがある一方で、デメリットもあります。どのような場合にデメリットが発生するかについても見てみましょう。
葬儀方法が親族の希望と異なる場合
例えば、本人が考えていた葬儀の方法は直葬だったとしても親族がそれを見て「そんな方法じゃ、ちゃんとお別れも言えないから普通に葬儀をやりたい」と言い出した場合、生前予約した意味はなくなってしまいます。生前予約をする際は、親族ともある程度は話し合う必要があるでしょう。
契約時に費用の確認ができていない場合
結婚式と同じで、葬儀の料金の決め方は「基本料金+オプション料金」という形式で決まっていきます。そのため、どこまで基本料金でカバーしてもらえるのか、どこからがオプション料金がかかるのか、ちゃんと確認しないと後々トラブルのもとになります。
葬儀社が倒産した場合
生前予約の場合、葬儀にかかる代金は業者によって前払いか後払いかが分かれます。前払いシステムを採用している業者の場合、倒産したらどうなるのかということが問題になります。他の業者が事業承継してくれたならいいのですが、最悪の場合、「お金を払ったのに葬儀をしてもらえない、ということもありうるのです。
まとめ
以上、生前予約のやり方、メリット、デメリットについてまとめてみました。「遺される人に迷惑をかけたくない、満足して死にたい」そんな気持ちがこのような生前予約というシステムを生んでいるのだと思います。
私自身は、「死」について考えることは縁起の悪いことだとは思いません。むしろ、「死」について考えることで、「残された時間をどう使えばいいか」ということが鮮明になることから、「生」を考えることにもつながると思っています。「なんとなく縁起が悪くていやだなぁ」という人も、一度心をフラットにして、「自分が死んだときのこと」を冷静に考えてみてはいかがでしょうか。